「馬力制限」カテゴリーアーカイブ

オーストラリアのLearnerモデル

先日 MT-07 Tracer のことを書いたとき、排気量について少し触れた話で、今日はオーストラリアの Learner 向け制限について。

MTT660 2017 BC63 [MT-07 Tracer]
MTT660 BC63

事の発端は MT-07 Tracer で、オーストラリア以外ではモデル名が MTT-690 になっているが、オーストラリア向けだけは MTT-660 になっていた。モデル名だけではなく、排気量もヨーロッパ向け 689.6cc からオーストラリア向けは 655.6cc に下げられている。


なぜ、オーストラリア向けの排気量が 689.6cc から 655.6cc に下げられているのか。一言で言うとそれは、免許制度にある。

オーストラリアでは排気量などの制限がない自動二輪車免許を得る前に、Learner と呼ばれるライセンスを取得する必要がある。Learner ライセンス取得後に一定期間経過することが、制限がない自動二輪車免許取得の条件となる。しかし、法律は州によって定められているため Learner 以外に Provisional と呼ばれるライセンスを設けていたりと、同じ国でも差異があったりする。

その Learner ライセンスでは、乗ることができる自動二輪車が制限されており、概ね以下のようになっている。

  • Learner 向けに許可されているモデル
  • 660cc 以下の排気量
  • パワーウェイトレシオが 150kW/t を超えない

である。Learner 向けに許可されているモデルを、Learner Approved Motorcycle と呼び、略称の LAM という表現がオーストラリアのヤマハのページでも使われている。

話を少し戻す。この Learner 向けの制限に合わせるため、MT-07 Tracer は排気量を 655.6cc に下げて発売しているということである。この変更はシリンダーと一体化したクランクケースの変更と、ピストンの変更ぐらいで実現している。

と言うことで、オーストラリア各州/地域での Learner 免許制限について調べてみた。

州/地域 確認 web ページ
QLD https://www.qld.gov.au/transport/licensing/motorcycles/licence-types
WA https://www.transport.wa.gov.au/licensing/licence-to-ride-a-lams-approved-motorcycle.asp
NSW http://www.rms.nsw.gov.au/roads/licence/rider/approved-novice-motorcycles.html
SA https://www.sa.gov.au/topics/driving-and-transport/drivers-and-licences/motorcycle-licences/learner-approved-motorcycles
VIC https://www.vicroads.vic.gov.au/licences/licence-and-permit-types/motorcycle-licence-and-learner-permit/approved-motorcycles-for-novice-riders
TAS http://www.transport.tas.gov.au/licensing/getting-a-licence/motorcycle_licencing/non_novice_motorcycle_learner
NT https://nt.gov.au/driving/licences/get-your-motorbike-licence/introduction
ACT https://www.accesscanberra.act.gov.au/app/answers/detail/a_id/4515

上記にない JBT は ACT の法律が適用されるので、オーストラリアのメインランドでは全て Learner ライセンスでの 660cc 制限が存在することを確認した。クリスマス島やココス諸島など、それ以外の地域では未確認である。

そんなオーストラリアでの免許事情。
Special thanks for Stephan L

欧州のA2ライセンス向けモデル

FZ6-SHG 2009 4S8B [Fazer spec2]
FZ6-SHG 4S8B

事の発端は。先日まで FZ6 のことを書いていたが、ヤマハ発動機のニュースに掲載されていた9つのバリエーションが発売されるという2006年10月の記事である。
「FZ6 Fazer spec2」『インターモト2006』で発表


何が気になったかと言うと、それまで FZ6 / FZ6 Fazer として発売されていたモデルに spec2 が付いた FZ6 spec2 / FZ6 Fazer spec2 が追加された。そこまでは特にひっかかることはなく。
しかし、FZ6 / FZ6 Fazer の馬力は 72kW あったのに、spec2 が発売されると、FZ6 / FZ6 Fazer の馬力が 57kW に下げられているのである。これはどうしたものなのか。

ヤマハ「FZ6 Fazer spec2」『インターモト2006』で発表

FZ6 / FZ6 Fazer 発売時点で馬力は 72kW である。これは同様にヤマハ発動機のニュースで確認できる。
「FZ6-S “Fazer”」「FZ6-N “FZ6″」について
なぜ馬力を下げる必要があったのか。今日はそこを調べてみる。

ちょっと話を変えて、他社の自動二輪車のことを。ここで他社の自動二輪車のことを取り上げるのはないと思っていたが、良い例がなかったので。川崎重工は、ヨーロッパでも Z900 を発売している。

KAWASAKI 2018 Z900
KAWASAKI 2018 Z900

先日まで、Z900 はヨーロッパでフルパワーモデルと 70kW モデルの2種類を発売していた。そして、1週間前に 35kW モデルが追加となる。
Z900 フルパワーモデル
Z900 70kWモデル
フルパワーモデルでは、92.2kW なのだけど、それ以外に 70kW のモデルを発売する意味がわからない。なぜ意味がわからないかと言うと、EU での A2 ライセンスでは 35kW の馬力制限なので、70kW モデルは何のためのモデル?となってしまうからである。ここで、A2 ライセンスモデルのレギュレーションを確認してみる。

現在、EU での運転免許については 2006/126/EEC で規定されており、2013年1月から施行されている。2006/126/EEC では、A2 カテゴリを以下のように規定している。

motorcycles of a power not exceeding 35 kW and with a power/weight ratio not exceeding 0,2 kW/kg and not derived from a vehicle of more than double its power,

最後のところに書かれている、not derived from a vehicle of more than double its power が 70kW の根拠である。つまり、由来となるモデルが倍以上の馬力を持っては駄目ということになっている。Z900 で説明すると、先日発売された Z900 35kW モデルの由来である Z900 が 92.2kW だと、この規定に違反する。そのために、Z900 70kW モデルを出して、そのモデル由来の 35kW ということだと、クリアされる。ざっくり言うと、A2 ライセンス向け 35kW の決まりのため、わざわざ誰も買わないと思われる 70kW をラインナップに入れる必要があった、ということである。

話を FZ6 / FZ6 Fazer の 57kW モデルに戻す。この 57kW に意味があるのか調べてみると、FZ6 の後継でもある XJ6 シリーズのヨーロッパ向けでも 57kW の馬力であった。そして、XJ6 では A2 ライセンス向けも発売されていた。他社でも GSF600 や CBF600 など、この辺りのクラスでは 57kW の馬力で、同じモデルの A2 ライセンス向けを発売していた。そうすると、57kW というのは A2 ライセンス向け 25kW 制限と何か関係がありそうである。

EU で2013年に始まった運転免許の規定 2006/126/EEC より以前を確認すると、91/439/EEC の規定が1996年から2013年まで用いられていた。しかし、91/439/EEC の規定では A2 ライセンスの記述はなく、A ライセンスの規定で18歳までは 25kW の制限があると書かれているだけである。そうなると、2013年までは EU として A2 ライセンスはなかったということになる。

ヨーロッパヤマハの web ページを見ると、2013年以前でも A2 向け表記が見つかるが、何を指しているのか。これは、EU としての規定ではなく ヨーロッパのそれぞれの国で規定されている A2 を指していることになる。そうなると、57kW の根拠がどこの国に書かれているのか、調べるのが大変になってくる。ざっと調べてみたが、当時の法令について、見つけることができなかった。見つけられなかったのは、英語以外の言語でも確認する必要があるので、それができなかったことが大きい。A2 ライセンスがあったということ自体は、複数の国で確認している。

予想で書くとする。FZ6 / FZ6 Fazer が 57kW に馬力を下げたのは、ヨーロッパのどこかの国で規定されている A2 ライセンスの規定によるもので、25kW モデルを出すには、元となるモデルが 57kW 以下でないと違反するため、ではないかと。
もう少しきっちり詰めて結論を書きたかったけど、調査不足からこんな結論になってしまった。